今月の臨床 不妊診療─現在の課題と将来展望
着床前診断の現状と展望
杉浦 真弓
1
1名古屋市立大学大学院医学研究科産科婦人科学講座
pp.1488-1491
発行日 2007年12月10日
Published Date 2007/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409101624
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はじめに
1990年,Handysideらが最初の着床前診断を報告し,2005年には本邦でも着床前診断が始まった.これは体外受精後の受精卵が8~16分割したころに1~2割球を生検して,“非罹患胚”と診断された受精卵を子宮内に胚移植する技術である.筋ジストロフィー,ハンチントン病などの遺伝子疾患に罹患した胎児を回避する目的で行う場合と,不妊症・不育症患者において生児獲得のために行う場合と大きく分けて2通りの適応がある.
この技術には,①受精卵を操作廃棄することに対する生命倫理的問題,②障害を持つ人たちからの優性思想であるとの批判,③自然妊娠が可能な人に対して体外受精を行う,といった問題があると考えられる.出生前診断や生殖医療技術については技術が先行して倫理的議論があまりされないまま進んできた歴史的背景がある.日本産婦人科学会はこのような批判を考慮して1998年に「着床前診断に関する見解」を作成し,重篤な遺伝性疾患に限って,申請された疾患ごとに審査して認可することを定めた.現時点で均衡型転座を持つ習慣流産患者,Duchene型筋ジストロフィー,筋強直性ジストロフィーを含む31例が承認されている.ここでは当院から申請した筋強直性ジストロフィー,相互転座を持つ習慣流産患者を中心として着床前診断の現状を解説する.
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