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はじめに
癌転移は決してランダムに起こるわけではなく,癌細胞は絶えざる遺伝子変異を伴い,不均一な細胞集団から転移に好都合な細胞形質(増殖性,薬剤感受性,浸潤能,形態,免疫原性など)を獲得し,さらには宿主の淘汰圧から逃れることにより首尾よくこれらの過程を突破したきわめて少数の癌細胞により形成される.転移研究を関連分子の探索や同定に方向づけさせたきっかけは,Liotta1)が提唱した“癌細胞の基底膜浸潤の3段階説”であろう.多段階の転移形成過程における浸潤のステップは,とりわけ血行性転移の場合において,癌細胞が血管内への侵入と血管外への脱出の際に必要であり,癌細胞の基底膜への接着,分解,移動の連続する3つの段階に分け,それぞれに複数の特有の分子群が浸潤を完結させるために関与している.癌細胞が原発部位と異なる遠隔臓器に転移巣を形成するためには,原発部位における癌細胞の増殖と発現形質の多様化を経たのち,(1)原発腫瘍からの癌細胞の離脱と周辺組織への浸潤,(2)脈管内への侵入,(3)脈管内での移動と癌細胞と宿主免疫細胞との相互作用,(4)転移先の標的臓器の脈管内への癌細胞の着床,(5)脈管外への脱出,(6)転移先組織への浸潤と増殖といった転移カスケードと呼ばれる複雑な過程を経なければならない.近年,in vivoモデルの開発や分子生物学的手法が進歩し,それぞれの過程で生じている生物学的現象を担う分子や,それらが相互に影響し合うメカニズムが明らかにされつつある2).また,最近話題になっている転移前ニッチ(premetastatic niche)などの宿主側の役割についても研究が進展している.
そこで,非常に多岐にわたる癌転移研究の成果のなかで,本稿ではすでに臨床応用段階にある受容体型チロシンキナーゼ(receptor tyrosine kinase : RTK)と,今後の応用が期待されるケモカイン/ケモカイン受容体について概説し,今後の癌転移治療の確立に向けて考察を加えたい.
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