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はじめに
Edwardsらが1978年に人での体外受精に成功して以来,本来自然では卵管にある時期の胚(2から8細胞期胚)を子宮腔に胚移植を行っても,妊娠が成立することがわかった.また,体外受精の最初の目的が卵管性不妊症であったのに対して,1992年にベルギー大学のグループが重度の男性不妊症の治療に卵細胞質内精子注入法(ICSI)を実施して妊娠が報告され,その数年後には精巣内精子を用いたICSIによる妊娠が報告された.現在では非閉塞性無精子症患者でも精巣内にごく少量の精子がみつかれば,妊娠が可能となった.
一方,社会的には体外受精による多胎妊娠が問題となってきており,単に妊娠をさせればいいというわけではなく,いかに胚移植の個数を少なくして妊娠率ではなく着床率を上げられるかが重要である.双胎でも単胎と比較すると妊娠中の合併症や低出生体重児が生まれる頻度が高くなるので,どのようにして多胎妊娠を減少させられるかが重要である.世界の流れは,特にヨーロッパの流れは妻の年齢が若くARTが初回または2回目で良好な胚が3個以上あるときは積極的にsingle embryo transferを行うようになってきている.この流れから,どの胚が高い着床能をもった胚なのかを選別可能になるという点からも胚盤胞移植が注目されるようになった.
ではなぜ近年まで胚盤胞移植が行われなかったかというと,胚盤胞到達率の悪さや,たとえ胚盤胞に到達しても細胞数が少なく良好な胚盤胞が得られなかったからである.Vero細胞との共培養では胚盤胞の良好な成績が報告されていたが,他の動物種の細胞との共培養をすることによりどのような影響が出るか不明の点が多く普及はしなかった.近年,sequential culture mediumの開発(初期胚培養用の培養液と後期胚培養用の培養液)により,胚盤胞到達率が飛躍的に上昇し,高い着床能を有する胚を獲得することが可能となった.
本稿ではまず胚盤胞移植の特徴について述べた後,EBMをもとに胚盤胞移植の利点と欠点ならびに問題点について述べる.
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