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1 胚盤胞移植の利点と問題点(初期胚移植に比して)
生殖補助医療(assisted reproductive technology : ART)においては長くHTF(human tubal fluid)を主体とした培養液が使用されてきたが胚盤胞到達率は低く,移植可能胚の獲得は困難であった.近年,ヒト胚において発育初期と胚盤胞形成の発育後期ではグルコースやアミノ酸代謝が異なり,発育ステージにより要求栄養素が異なることが明らかになった.そこで採卵から初期胚の発育までと,それ以降8細胞胚から胚盤胞までの発育を目的とし,その内容成分を変えそれぞれに最適化し別個に作製された培養液を,発育ステージにより切り替えて(medium change)連続使用するsequential culture mediaが開発された.1998年,Gardnerら1)は自らが開発したsequential culture mediaによる胚盤胞培養・移植により50.5%の着床率と71%の妊娠率を示しその有効性を報告した.その後,種々のsequential culture mediaが開発・市販化され,胚盤胞移植は普及した.
現在,胚盤胞移植が初期胚移植に比して高い着床率・妊娠率をもたらすことに疑いはないが,胚盤胞到達率は初期胚と比して決して高いとはいえず,Gardnerら1)によるとゴナドトロピンに対する反応性が良好な患者を対象としても採卵当たりの胚盤胞到達率は43%であり,採卵数が少ない症例では胚盤胞が得られず移植キャンセルとなることが少なくない.2005年までのCochrane Reviewでは,いかなる条件下においても採卵後2日または3日目(day2/3)初期胚移植と採卵後5日または6日目(day5/6)胚盤胞移植を比較した場合は,症例当たりの妊娠率・生産率に差を認めなかった.最新の報告2)でもday5/6胚盤胞移植の優位性は,特定条件下(4個以上の受精卵獲得症例,初回または2回目採卵症例,卵胞数10個以上の症例,若年婦人症例,男性因子単独症例などの予後良好例でday3時に初期胚移植,胚盤胞移植をランダムに振り分け移植胚数を同数とした場合)においてのみ症例当たりの生産率が初期胚移植より良好との結果であった.胚盤胞移植では依然,症例当たりの余剰胚凍結率低下や予後良好症例以外での移植キャンセル率の増加がみられ,胚盤胞移植は選ばれた症例での単一胚移植に適応し得るものとし,day2/3初期胚移植に対する優位性については今後も検証を継続する必要があるとしている.
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