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はじめに
Laparoscopic ovarian drilling(LOD)はpolycystic ovarian syndrome(PCOS)に対する外科的治療法として広く普及している治療法である.
Polycystic ovarian syndrome(PCOS)の不妊患者に対しては,通常はまずクロミフェンの投与による排卵誘発が第一選択となる.しかし,クロミフェンに抵抗する症例も本症例の約15~20%に見受けられる.次に,クロミフェン抵抗性のPCOS症例に対する薬物療法としてHMGの投与が行われることが多いが,OHSSや多胎妊娠などの問題点のある治療法である.HMGの投与法にさまざまな工夫を加えてこれらの問題を克服しようとされているものの,OHSSや多胎妊娠を完全に克服できていないのが現状である.また,高価な薬剤費や頻回のモニタリングにより通院日数が多いこと,そして流産率が高いことなどが問題となる.さらに,近年インスリン抵抗性を示す症例に対しメトホルミンなどインスリン抵抗性改善薬による治療も積極的に行われているが,すべての症例に有効であるとはいいがたい.
PCOSに対する外科的治療法としてはStein, Leventhal1)により1935年に報告されたovarian wedge resection(WR)が始まりである.この術式はクロミフェンが開発されるまでは,本症例の唯一の治療法として広く普及し,長きにわたり行われてきた.しかし開腹手術による侵襲の高さ,卵巣組織の減少,また術後の癒着が問題となっていた.体外受精胚移植のない当時に卵管の癒着は不妊治療を行ううえで致命的ともいえる問題点であった.
一方,1980年代に入り,不妊症の検査や治療のために導入された腹腔鏡検査は多くの施設で行われるようになってきた.そこでPCOS症例に腹腔鏡検査をする際,外科的治療を同時に行う試みが1983年ごろより始まった.WRのように卵巣組織を切除するのではなく,腹腔鏡を用いて卵巣を電気的に焼灼2)ないしはレーザーによる蒸散3)するテクニックが用いられるようになってきた.この治療法はいわゆるlaparoscopic ovarian drilling(LOD)と呼ばれる.その結果,卵巣組織の減少も多くなく,そして術後癒着が軽減されることとなった.WRからLODと術式の変化はあるものの,卵巣に対するtraumaがPCOSの病態を改善することには異論のないところである.
LODはクロミフェン抵抗性のPCOS症例に対する外科的治療として広く普及しているが,その適応について確立したものはない.PCOSに対するLODの排卵率は61%から100%4)と報告されており,報告によってばらつきが多い.これは手技的な差もあると思われるが,対象症例の選択による違いが大きいと考えられる.
PCOSの診断基準としては,全世界的に認められている基準はいまだ確立していない.これはPCOSの本態がいまだ十分に解明されていないことと,臨床症状,内分泌所見などに多様性が存在するためである.さらに,人種間においてもその多様性が存在し,統一的な診断基準を設定することを困難にしている.たとえば,欧米では70%に認められる多毛が,本邦では10~20%と少ないことなどがある.本邦では1993年に日本産科婦人科学会で作成された診断基準により診断される.欧米では2003年ESHRE/ASRMにて統一された診断基準が策定され(表1),今後の標準となっていくと思われる.しかし,PCOSにはいまだ診断基準に曖昧さがあり,術後の成績に差異をもたらしていると推察される.
この本邦と欧米の診断基準項目に共通する点として,1つは月経異常,そしてもう1つは特徴的な卵巣の形態,つまり多嚢胞性卵巣という項目が挙げられる.すなわち,PCOSという症候群において「多嚢胞性卵巣」とはきわめて重要な所見であると考えられている.
上述したようにLODはPCOSに対するきわめて有効な外科的治療法であるが,今回われわれは,PCOSに特徴的な多嚢胞性卵巣像を示さない無排卵症例に対してLODを施行し,自然排卵を認めた1例を経験したので報告する.
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