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緒論
過度の筋緊張の亢進による痙性麻痺は,リハビリテーションを行なううえに,大きな障害となる.とくに下肢の痙縮は,移動・姿勢の保持などの日常生活動作に関係が深く,治療の妨げとなることが多い.痙縮の発現機序についての説明は,十分になされていないが,痙縮はγ細胞よりのインパルスが増加したために,筋紡錘発射が盛んとなり,Ia群線維を介して,α細胞の活動が刺激される結果,伸張反射が亢進するとされている1).このγ環の悪循環を遮断し,痙縮をコントロールするため,従来より神経2),筋3)または腱4)に対する手術療法,薬剤5)あるいは電流6)による神経の破壊など,種々の方法が試みられてきた.しかしながら,関節の不安定性,筋力の低下,知覚障害および,その他軟部組織の損傷などの合併症を伴わず,比較的長期間にわたつて効果が持続し,より選択的に,より正確に,非可逆性変化の少ない方法が追求されてきた.Maher7)らは,頑固な癌性疼痛に対して,5%フェノール・グリセリン溶液をくも膜下腔に注入し,永続性の鎮痛効果を得たと最初に報告した.しかし手技の繁雑,選択性の悪さ,中枢神経系および心血管系などへの副作用の多発などの理由により,フェノール溶液のくも膜下腔内注入は行なわれなくなつた8〜10).その後,Khalili11)の末梢神経への低濃度フェノール溶液による,選択的ブロック法に始まる多くの報告が見られ,手技の簡便さ,知覚および随意運動にほとんど障害を認めないこと,長期間持続していた筋群の痙縮の選択的除去,また高濃度フェノール溶液による運動神経や,他の軟部組織への浸潤が,低濃度フェノール溶液には比較的みられないことなど種々の利点が報告されてきた.われわれは,低濃度フェノール溶液による下肢の痙縮の管理を,経皮的に絶縁電極注射針を用いて神経を刺激し,目的とする部位の筋の収縮を電気的に分離・確認しながら選択的にブロックを神経叢,神経幹または運動点に行ない,それぞれの適応,特徴および効果を比較し,その臨床結果について報告する.
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