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あとがき
吉川 秀樹
pp.106
発行日 2016年1月25日
Published Date 2016/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408200455
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明けましておめでとうございます.昨年末も,日本人のノーベル賞受賞が大きな話題になりました.なかでも,私が特に関心を持ったのは,生理学・医学賞を受賞された大村智先生でした.意外にも,医薬品開発者の受賞は1988年以来27年ぶりでした.ノーベル賞委員会はこれまで,医薬品開発者への授賞には消極的であり,その主な理由として,長期経過後の副作用の可能性や,それを凌ぐ新薬が次々と現れることなどが挙げられています.現在も,年間約3億人が恩恵を受け続けているという大村先生の業績が,いかに偉大であるかが伺われます.選考委員会では,これだけの人類への貢献は,ノーベル平和賞にも該当するとの賞賛を得たそうです.大村先生は,土壌に含まれる天然の細菌から,寄生虫駆除に有効な新薬「イベルメクチン」他を商品化し,フィラリア症などの特効薬として,世界の感染症発生地域に無償提供しました.さらに,アメリカの大手製薬会社からのロイヤリティ収入を多くの医学研究に寄付しただけではなく,北里メディカルセンターの設立や美術館の設立も行いました.優れた学者でありながら,ビジネス感覚を併せ持ち,得られた収益を私することなく,社会に還元させる姿勢に感銘を受けました.「人があまり考えないことで,世の中の役に立つのが自分の使命だと思って絶えず挑戦してきました.」「自分のこれからの最大の仕事は,人を教育することです.」など,大村先生の言葉は,われわれ整形外科医にとっても,示唆に富み,日本人を勇気づける受賞であったと思います.
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