外科医のための局所解剖学序説・26
鼠径部・下肢
佐々木 克典
1
Katsunori SASAKI
1
1信州大学医学部解剖学第1講座
pp.111-120
発行日 1999年1月20日
Published Date 1999/1/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407903509
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
下肢の体表の解剖はみずから触れることができるものが多いから,あえてとりあげるまでもないかもしれない.簡単に述べておく.幾つかの骨の出っ張りを触れるとき,触れやすくするためにどうすればよいか,考えてみるのもよい.例えば坐骨結節は座れば大殿筋に被われないことからわかるように,大腿を屈曲すれば触れやすい.触診できる骨の出っ張りには大かた滑液包があり,滑液包炎の起こる場所でもある.筋の視診,触診も下肢では容易だ.特にその筋の働きにあらがうような力をかけると,はっきり識別できる.縫工筋と鼠径靭帯,長内転筋で作る大腿三角は大腿静脈,動脈,神経が内側からVANという順序で並ぶことは常識であろう.脈をとれる血管が幾つかあるが,足背動脈は触れやすく,また末端の血管の変化を早い時期に示す.皮静脈が発達し,よく見える.Saphenousという語源はギリシャ語でいうclearからきていると言われている.神経としては坐骨神経の位置が取り上げられることが多いが,骨に直接接する神経に着目しておくのもよい.腓骨神経は腓骨頭の下縁に接して下行する.
下肢の外科の歴史は多くのエピソードをもつが,ここでは銃弾で裂けた大腿動脈の再建について述べる.第二次大戦までは裂けた血管は結紮が主体であり,その再形成が試みられるようになったのは朝鮮戦争からであると言われている.それを1897年にすでに試みた人間がいた.シカゴのMurphy J Bである.
Copyright © 1999, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.