同心円状モデルで読み解く 新しい食道外科解剖・5
頸部・鎖骨上領域—二つのNo. 104リンパ節
藤原 尚志
1
Hisashi FUJIWARA
1
1東京医科歯科大学 消化管外科学分野
pp.741-752
発行日 2023年6月20日
Published Date 2023/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407214163
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Introduction
頸部の手術では,白いアワアワの筋膜構造が明瞭となる局面が多く,出血量も比較的少なく手術が進むことが多い.手術操作は電気メス中心に進み,直視下手術の醍醐味が凝集した手術と言える.またNo. 104領域は反回神経も無関係であるうえに,リンパ節転移頻度もさほど高くないため,食道癌手術においては「特に困らない」領域と言える.一方で既存の解剖学のテキストには,胸腹部と異なり,頸部の筋膜構造については明瞭に描出されているのも特徴である.しかし,この既存の筋膜構造が食道癌手術にとにかく直結しない(と,少なくとも私は感じた).名前が複雑に付いているものの,実際の手術に全く活きることがなかった.今考えると,その理由の一つは,食道癌で扱う頸部が「下頸部・頸胸境界領域」であるからであったのかもしれない.
以前より私自身は,No. 104領域には本稿の話題の中心である二つの領域が存在することを強く感じながら手術をしていた.このNo. 104領域における二つの領域という話題は,頸部郭清の経験を多く有する外科医ほど共感・理解が得られるようである.この二つの領域,層の違いは何かということを考え抜いて至った結論が,これから本稿で解説する「Vascular layerの2層化」である.そして,気管分岐部以下のいわゆる中下縦隔も含めて,人体は基本的にVascular layer(血管層)が腹側と背側の2層性になっていると仮定すると,途端に多くの解剖学的な課題に説明がつくようになった.この「Vascular layerの2層化」が同心円状モデルのさらなる進化となったのである.
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