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はじめに
後腹膜肉腫は比較的稀な疾患であり,いわゆる希少がんに分類される.しかし,日常診療で後腹膜肉腫の診療に携わった経験が一度もない消化器外科医はむしろ稀ではないだろうか.そのような意味では,後腹膜肉腫は決して稀な疾患ではなく,腹部外科に携わる医師であれば,本疾患に関する知識をある程度習得していることが必要である.
これまで本邦での後腹膜肉腫に対する治療は,消化器外科,泌尿器科,産婦人科などの,腹部悪性疾患診療に携わる診療科の外科医が,いわば「場当たり的」に行ってきたことが多かったのではないだろうか.後腹膜腔という特殊なスペースに発生する腫瘍であるため,これはある意味やむを得ないことであるかもしれない.しかし,2015年に厚生労働省により「希少がん医療・支援のあり方に関する検討会」(座長 国立研究開発法人国立がん研究センター理事長 堀田知光先生)が設置され,希少がん医療に注目が集まると,これに分類される後腹膜肉腫についてもエビデンスに基づいて系統的に診療を行うことの必要性が認識されるようになった.そのような過程の中で,「後腹膜肉腫診療ガイドライン」作成委員会(委員長 国立がん研究センター中央病院骨軟部腫瘍科 川井章先生)が2019年5月に設置された.委員会は,骨軟部腫瘍科(整形外科),消化器外科,泌尿器科,腫瘍内科,放射線科,病理診断科など,後腹膜肉腫診療に関わる複数の診療科のエキスパートにより構成され,約2年半にわたりエビデンスの集積およびエキスパートオピニオンの評価が行われた.こうして2021年12月に,本邦初となる後腹膜肉腫診療ガイドラインが出版された.
本稿では,後腹膜肉腫診療ガイドラインの内容を概説するとともに,ガイドライン作成の過程を通じて浮かび上がった,後腹膜肉腫診療に関する今後の課題について解説を行いたい.
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