- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
後腹膜腫瘍は稀な疾患であり,その臨床像は実に多彩である.悪性である後腹膜肉腫の組織型は,脂肪肉腫が最も多く,次いで平滑筋肉腫が多い.また,稀に未分化型多型肉腫,悪性末梢神経鞘腫瘍,Ewing(ユーイング)肉腫などがある.
後腹膜肉腫治療の基本は外科手術であるが,術前画像診断をもとにしてどのような手術を行うかを判断することは,時として難しいことがある.後腹膜に所属する臓器は,腎臓,副腎,脾臓,膵臓などがあり,また骨盤底においては子宮,卵巣,精巣,精囊などの生殖臓器もある.また,臓器以外の構造物として,腹部大動脈,下大静脈などの大血管や大腰筋,腸骨筋,横隔膜などの筋組織,さらに脊椎,神経,腸間膜もある.後腹膜肉腫は多くの場合,これらの構造物と広く接しており,腫瘍そのものも大きいことが多いため,画像のみでどの部位に浸潤があり,どの部位にないのかを判断することが困難な場合がある.実際には,開腹をしてみないと判別できない,というのが正直なところではないだろうか.
後腹膜肉腫は,上記のように様々な臓器や構造物を巻き込んでいることが多いため,手術に携わる診療科も,消化器外科,泌尿器科,産婦人科,整形外科,血管外科,心臓外科など多岐にわたる.すなわち,高度に進行し,高い侵襲を伴う手術を必要とするような後腹膜肉腫は,これらの診療科が揃った施設で行うことが望ましい.したがって,後腹膜肉腫を専門的に扱うことができる,いわゆるサルコーマセンターに症例を集積させることは非常に重要である.特に腫瘍が様々な後腹膜構造物に接し,複雑な手術を必要とする大きな後腹膜肉腫の場合は,複数の診療科間で事前に十分なカンファレンスを行い,どのようなアプローチで手術を行うかを入念に検討しておく必要がある.
本稿では,術前画像診断で治療方針に迷った後腹膜肉腫の手術症例をいくつか紹介し,本疾患治療の難しさを筆者の経験をもとに紹介する.
Copyright © 2022, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.