ひとやすみ・135
身の引き際を知る
中川 国利
1
1宮城県赤十字血液センター
pp.349
発行日 2016年3月20日
Published Date 2016/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407211118
- 販売していません
- 文献概要
平成27年9月,日本外科学会や消化器病学会などの会長を務めたS先生が逝去された.先生は外科教授として永らく臨床や教育に携わり,大学を定年退職後は私が勤めていた病院の院長として赴任した.教授時代は近寄り難い存在であったが,病院長となってからは親しく指導いただいた.そして外科医としての身の引き際までを教えてくれた.
先生は手術が得意で,教室の誰もがその確実で華麗なる手技に憧れたものである.そして病院長となっても,紹介された患者さんの手術を行った.ある日,回盲部癌に対して結腸右半切除を行うことになり,私が第一助手を務めた.いつものように愛用の曲がり鉗子で腫瘍周囲を大きく挟み,剝離を始めた.しかし癌が浸潤していたこともあり,右総腸骨静脈を切離してしまった.そこで私は,「先生,後は私に任せてください」と,恐れ多くも直言した.すると先生は,「よし,任せる」と言って手を下し,手術室を離れた.私は後輩を相手に総腸骨静脈を吻合した.そのうち,先生が戻るだろうと思いながら手術を進めたが,一向に戻ってこなかった.
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.