発言席
母親の身になるということ
田中 千穂子
1
1花クリニック精神神経科
pp.531
発行日 1990年7月10日
Published Date 1990/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900083
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近年の子育てに関するあふれるほどの情報や,異常なまでの教育熱は,流行語になってしまった母子相互作用論と結びつき,「胎児期からうまく子育てしないと将来大変なことになる」という言い方で,母親たちに焦燥感をつのらせている。そういう意味で,現代ほど子育てが困難な時代はないのではないだろうか。そして同時に,母子を援助する援助者の質が真剣に問われている時代であるともいえよう。
私たちは様々な場面で母子にかかわるが,検診や検査場面,あるいは病院などで母親が援助者側の対応に傷つけられるということがしばしば起こり,それが話題になる。その原因として援助者の忙しさや未熟さ,あるいは体制上の問題などがあげられている。確かに個々人の技量やパーソナリティに起因する問題はあるであろう。しかしあまりにも頻繁に生じるこの問題について,筆者はより深い普遍的な問題が横たわっているのではないかと考えている。
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