扉
手術される身になって
深井 博志
1
1川崎医科大学脳神経外科
pp.719-720
発行日 1976年8月10日
Published Date 1976/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436200486
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脳神経外科学は手術的治療を基本とする治療医学なので,治療の中心は手術となるのは当然である,この手術に関する冒頭の言葉は,昨年,亡くなられた目本脳神経外科学会の大先達である中田瑞穂先生が生前に好んで,私共に説かれた警句である.
外科医になりたての頃は,とくに数年にして多くの手術症例を経験し,大過なく患者が癒っていた頃は手術に対する自信はむしろ過剰となり,先生にこの警句でいましめられ,頭の中で理解できても,症例の少かった時代の警句に過ぎないと思うことがあった.しかし,外科医となって四半世紀を経たこのごろになって,この警句は手術の決定と遂行を通じて,先達の長い臨床経験から得られた,外科医としての治療上の悩みが自づから吐露された,極めて謙虚な言葉として,重みを持って納得できるようになった.そうしてこの警句は最近のように,脳神経外科領域における対象症例の増大と診断技術および手術術式の進歩の顕著な現今にあっても真理であり,むしろ,手術適応の拡大と術式の進歩のゆえに再び問い直されるべき警句と信ずるようになった.
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