特集 Controversy;皮切と到達経路
〈コメント〉—乳癌
阿部 令彦
1
,
榎本 耕治
1
,
池田 正
1
1慶応義塾大学医学部外科
pp.1341-1342
発行日 1982年9月20日
Published Date 1982/9/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407208120
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皮膚切開線 基調論文に見られるように,Stewartの横切開は,縦切開とくらべて美容上優れているので,私は出来る限り横切開を行うことにしている.胸壁の皮膚欠損部の辺縁は,欠損部の面積が等しければ,左右より上下の方向に縫合すると縫合部の緊張は少なく,従つて創縁の血行障害も縦切開の場合より軽微で,皮膚縫合線部の壊死が起こりにくい.また移植皮膚面もすくなくてすむからである.ここで注意すべきは,基調論文で指摘されているように,横切開が上腕に入らぬようにすることはもちろん,腋窩の中心からなるべく離れるように心掛けることである.私は腋窩中心から少なくとも3横指距離をおいた胸壁皮膚に切開線が入るような皮切を行つている.横切開を行う場合には,リンパ管の走行を考えると,縦切開,斜切開にくらべて,腋窩の方向に走るリンパ管を切離する可能性が高く,理論的にはen bloc dissectonの意味を少なくさせるという議論があつたが,この問題は,皮膚をどの位の厚さで切離するか,その範囲をどうするかなどにかかわつてくる.いわゆる「皮膚薄切」の問題は,乳癌研究会でも話題にのぼり,昭和40年頃からは,皮下脂肪は出来る限りとるような皮弁作製が盛んになつてきたので,近年では局所再発—手術操作の加えられた領域での再発は約4〜10%となつた.非定型的乳癌根治手術の適応症例が増加しつっある今日,皮下脂肪も次第に厚く残す傾向にあるが,横切開では上述の理論的問題を考慮して,バランスのとれた皮膚切離に注意すべきものと考えている.
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