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乳癌の基本的手術術式として定型的乳房切断術を最も多く実施している.本法は乳腺,それを被つている皮膚,皮下脂肪組織,筋膜,大小胸筋を切除するとともに腋窩リンパ系をこれらと連結したまま一塊として郭清することを原則としている.皮膚の切除量,切開線と腫瘍縁との距離,皮下脂肪の切除量,手術の適応範囲など細部にわたつて議論されることが多いが,乳癌の根治性を追求する上で最も確実性が高く,信頼し得る完成された術式である.本法の適応は全身状態や年齢による制限は殆んどないといつてもよい.Haagen—senおよびStoutは厳密な適応禁忌を挙げているが,筆者はそれほど制限していない.近年補助的療法の進歩もあり,集学的治療の思想が徹底しつつあり,乳癌治療の成績向上が得られるようになつて,従来適応禁忌とされた症例に対しても,積極的に本術式を施行するようになつてきている.筆者は非定型的乳房切断術に対しては厳密に適応を決めている.すなわち非浸潤癌,Paget病,浸潤癌の場合はT1で外側に位置し,腋窩転移を認めないような症例に対し施行している.以上の観点より定型的乳房切断術を中心に記す.
皮膚切開線は基本的には乳房の皮膚および皮下脂肪組織の合理的な切除,腋窩リンパ系に対する容易な到達,皮膚欠損部の合理的な形成,上肢機能障害の予防などを考慮して決定する.筆者はHalsted-Haagensen法に準じた縦切開法を多用し,時にStewartの横切開法を用いることがある.腫瘤が外側や内側の辺縁に偏在するときは,腫瘤を皮膚切開線の中心におくことが困難となり,また皮膚欠損部が大きくなるため,Stewartの横切開を変形した斜切開法を行うこともある.本法は皮膚切開線の中心に腫瘤を位置させやすいこと,皮膚欠損を生じる率が少ないこと,皮膚の一次縫合が困難な場合にも腹壁の皮下組織の剝離を十分に行い,減張縫合などを併用すれば,相当な範囲の皮膚の移動が可能となること,手術瘢痕が下方にくるため美容的にも上肢の機能保存にも良好なこと,腋窩部や大胸筋附着部など外側部の操作が容易であることなどの利点があり,患側上肢の下降や運動で創面が圧迫,擦過されることがあり,瘢痕がやや不良となる短所もあるが比較的多く用いるようになつてきている.
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