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非定型的乳房切断術とは
"非定型的"という言葉がわれわれの仲間で使われ始めたのは1970年頃と記憶する.非定型的という以上はて"定型的"がある筈で,乳癌に対してHalsted-Meyerが創始した乳房切断術をわれわれは定型的乳房切断術と呼んでいるのである.すなわち,乳房と腋窩内容と大小胸筋を連結したまま(en bloc)切除する術式(Br+Ax+Mj+Mn)であつて,これらの組織を別々に切除する(Br,Ax,Mj,Mn)のではない.Halsted,W.S1)が1894年11月12日に"The results of oP—erations for the cure of cancer of the breast"と題して発表した論文では,乳房と腋窩内容と大胸筋とを一塊として切除(removal in one piece)しているが,小胸筋は切除せずに,烏口付着部近くの小胸筋を覆うリンパ組織や,筋付着部近くの下を走る微小血管を切除し,この手術を彼はcomplete operation,然らざる手術をincomplete operationと称した.その5週後Meyer, W.2)は"An improved method of the radical operat-ion for carcinoma of the breast"と題して発表した論文に,乳房と腋窩内容と大胸筋に加えて小胸筋をも一塊として切除し(exstirpation inone mass)し,この方法の方がmore radicalであると記載した.Meyerは6名の婦人にこの術式を行なつたのに対し,Halstedは50例のcom-plete operationsを行なつて,Meyerよりもやや早く発表したのであつたが,一般にはMeyer術式を行なうものが多く,この術式がStandardAmerican radical mastectomyと呼ばれた.このMeyerの論文に注目したHalstedは彼の原法を改めて,その後は小胸筋をも切除することにしたのである.Operation for the cure of……という確固たる目的意識に燃えるHalstedがmoreradicalな術式を敢然と採用した姿勢はさすがである.
このHalsted-Meyer術式はその後欧米で長期にわたつて乳癌のstandard radical mastectomyとして愛用され,日本でも根治的乳房切断術と訳されて遵奉されてきたが,早期から末期に至るいろいろな病期の乳癌に対してこのHalsted-Meyer術式一本槍でよいのか——手術の縮小あるいは拡大を考慮すべきではなかろうか——という批判が出るとともに,他方では乳癌は局所性疾患ではなく全身性疾患があるという観点から,手術と他の治療法たとえば放射線療法,化学療法,内分泌療法などとの複合療法の必要性も呼ばれてきたのである.
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