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食道の肉腫は稀で,悪性腫瘍の0.1〜1%にすぎない.ひとつの腫瘍において,癌腫と肉腫と2つの組織像をもつものを癌肉腫と名付けられたが(Virchow 1864),食道の癌肉腫についてLin (1971)は,欧米文献上39例を報告,また本邦文献上では,僅か10数例にすぎない.
症例 60歳,男性,約1ヵ月前より嚥下障害に気付く.全身状態は良好で,全粥の摂取が可能である. 食道造影所見(図①)では,中部食道(lm),左側壁に有茎性の約6.5Clnの腫瘤様陰影をみる,腫瘍の表面は,わずかに凹凸があり,粗糖を示すが,潰瘍はみとめない.内視鏡所見(図②a)では,上切歯列より28cmに表面平滑な腫瘤を認めた.有茎性で体位の変換により容易に移動し,深達度の浅いことが推定された.内視鏡を腫瘍の肛門側まで挿入したが,腫瘍の口側と肛門側とでその性状をやや異にし,後者に表面の凹凸の程度が増していた.腫瘍の右側後壁には,びらん性の癌浸潤がみられた(図2丿b).生検では中分化型扁平上皮癌と壊死組織しかえられず,腫瘤型+びらん型の表在型食道癌と診断し,右開胸胸部食道亜全摘,胸壁前食道胃吻合術を施行した.なお,肉眼的に転移リンパ節と思われるものは認めなかつた。切除標本では(図④),腫瘍は5.Ox2.6×1.Ocmの大きさで,基底部に1.5×2.5cmの茎をみ,その周囲に,2.5×3.5cmのびらん状上皮内癌様の変化をみた.腫瘤は緊満,充実性,表面はほぼ平滑,口側の半分はやや暗赤色で,表面に苔の付着もみた一病理組織所見では,ポリープ状腫瘤のほぼ口側の半分は肉腫状,肛門側半分は扁平上皮癌の所見である(図⑤).肉腫部分の表面には,壊死,出血,白血球の浸潤など炎症性変化もみられた.癌腫は分化した扁平上皮癌で,中心には角化もみられ(図⑥),癌の深達度は粘膜下層までである.周辺びらん状にみえたところは上皮門癌の状態で,間質に肉腫様変化はなく,リンパ球,形質細胞,好酸球などがみられ,また一部に,扁平上皮癌のリンパ管内侵襲がみられた(図⑦)一肉腫部分は,紡錘型細胞肉腫というべき所が大部分で,一部に多型細胞肉腫がみられた(図⑧).肉腫部分の鍍銀染色では(図⑨),格子線維が細胞内にこまかく入りこんでいて,線維に乏しい癌巣とは全く異なり,この腫瘍細胞が上皮性とは考えられない所見である.図⑩に癌腫部分と肉腫部分の移行部付近を示す.
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