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この手術の意義と適応
食道静脈瘤に対する外科治療はその意図する処から考えると,門脈圧を下降させることにより食道静脈瘤を軽減させようとする門脈圧減圧手術(門脈下大静脈吻合,脾腎静脈吻合など),食道静脈瘤の血流のみを選択的に大静脈系へ誘導しようとする選択的減圧手術(左胃静脈下大静脈吻合,遠位脾腎静脈吻合),そして食道静脈瘤と門脈系との連絡路をすべて遮断しようとする直達手術に大別される.そして直達手術のひとつとして食道離断術があるが,血行遮断の考え方の違いより,経腹的方法と経胸的方法とが行なわれている.我々は食道静脈瘤と門脈系との連絡路をすべて横隔膜の高さで遮断しようという目的で経腹的食道離断術を行なつており,腹部のみでの血行廓清と同時に腹部食道での離断,再吻合を腸管吻合器を用い,クリップ縫合で行なつている.食道は本来,門脈血領域の臓器ではなく,食道動脈により栄養され,食道静脈より奇静脈系に環流しているわけであるが門脈圧が上昇するに従い,胃噴門領域の静脈は拡張蛇行し食道静脈と大きな連絡を持つようになり,食道壁内,壁外での多数のネットワークを持ちつつ胸部食道へと伸展してゆき肝外性副血行路のひとつとなるわけであるがこの肝外性副血行路としての役割は大きなものではない.これらの血行路はその起源を大別してみると左胃静脈系副血行路,脾静脈系副血行路,そし胃壁内を上行する壁内系副血行路の3つに分けて考えることができる.我々の術式はこれらのすべてを横隔膜の高さで遮断し縦隔内へ門脈血が上昇しないように腹部より食道裂口周囲から上行する左胃静脈系,脾静脈系の血行をすべて廓清すると同時に壁内系血行路遮断のため裂口部にて腹部食道の離断,再吻合を行なうわけであるが,この部は解剖学的位置が悪いうえ,静脈瘤を持つた食道壁は多少組織が脆弱であるためこの部での縫合操作は必ずしも容易ではない.そこでこの離断再吻合に腸管吻合器が威力を発揮し容易にしかも確実に行なうことが可能となり,多くの利点を持つた方法である.現在まで48例に本手術を施行しているが,初期の症例中には静脈瘤が完全に消失せず軽度に残存したものがあり,内2例に再吐血が見られている(内1例は肝癌発生を見た症例)が,これらは食道離断部の静脈瘤が再開通したものではなく周囲血行廓清に問題があつたものと反省している.縫合のクリップは組織内に埋没し,脱落してこないわけであるがこれが異物となり周囲に厚い肉芽形成を有することは静脈瘤再開通を妨げているという良い面もあろうと考えられる.
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