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この腸管吻合器は腸管の円周状の内翻一層吻合を一期的に行ない得る器械として開発されたものである.本器のオリジナルデザインはソヴィエトで製造されたものであり,アンドローゾフ式のPKS-25,PKS-28,SPTU,などがあるが,このオリジナルの器械は多少の欠点があり臨床症例でこれらの器械の作動不良による事故が数例起こつたため,国産での改良型を作成し,現在の型のものとなつた.現在は口径及び長さの異なる2種類の器械がある.食道吻合とか空腸吻合用のものは全長40cm,吻合部口径が26mmであり(図1),直腸吻合用のものは全長30cm,口径32mmである.先端の円垂型の頭部部分は中心幹に連がり,手もとのネジの操作で本体より押し出されたり,引き戻されたりする.この部の本体先端と接する面の外周にはクリップを受け,これを内側に屈曲させる溝が堀られている.そしてその内側にビニール製の円形の板が装着され,これは円形刃を受けるまな板となる.本体の先端部の外周にクリップが装着される(食道用のものは13本,直腸用は17本).その内側に円形刃があり,手もとのハンドルを握ることにより,ロッドによりクリップとともにこの円形刃も本体より押し出される.クリップは幅4mm,足高4.5mmで平板型のタンタルム合金製である.本器による吻合の原理は図2のごとくである.すなわち吻合すべき腸管の内に本器先端部を挿入し,頭部と本体との間で吻合すべき腸管の断端を中心幹に結紮し,この両者間にしつかりとはさみ込む.これは手もとのネジにより行なう.次いでハンドルを握ることによりクリップ縫合とともにその内側の結紮された腸管断端部の切断が行なわれる.本器を用いて現在までに経腹的食道離断術100例,胃全摘術後の食道空腸吻合20例,直腸低位前方切除28例を行なつているが良好な成績である.
食道離断術においては,胃体部前壁に小さな胃切開をおき,ここより本器を挿入し,先端を腹部食道に透導しこの部で本器の頭部を押し出し,本体との間隙で食道の全周を外側よりしつかりと中心幹に結紮し,腹部食道の離断再吻合を行なうわけである.食道空腸吻合では端々吻合を行なう時にはRoux吻合を行なう部より先端を挿入する.端側吻合時には先端のρ吻合を作成する前に断端より挿入して行なう.直腸低位前方切除後の再建時には,肛門より本器を挿入して結腸又は回腸との吻合を行なう.しかしながらこの腸管吻合器があれば通常の縫合技術のテクニックをマスターしていない者でも完全な吻合が行なえると考えるのは誤まりであり,十分に通常の縫合技術を持つた者が,本器のメカニックを十分に理解した上で用いることにより,はじめて確実な器械吻合を行なうことが出来るわけで,通常の縫合が行ないにくい場所での吻合でも短時間で容易に行ない得るというメリットが生まれるのである.
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