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病理からみた肺癌—治療成績向上のために
林 豊
1
,
大和田 英美
1
1千葉大学医学部肺癌研究施設病理
pp.1298-1299
発行日 1977年10月20日
Published Date 1977/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407206829
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肺癌の基礎的な2,3の問題
予防医学的に社会環境が改まつてきた時代から,結核が減少した歴史にみるように,肺癌も,特効的な治療法ができる以前に環境を改めることがその発生を激減させるものとは思えない.しかし,環境因子についての対策も,当然,治療の1つと考えられる時代に私どもはあると思われる.環境に存在している種々の発癌物質が単一,微量で癌をつくらなくても,それらのいくつかの因子が重なつた際のことについては未知の問題が多く残されている.例えば,病理学的な裏付けはされていないが,石綿に曝された喫煙者が,それら2つの要素を欠く人の92倍も肺癌発生の危険性をもつとするSelikoffの統計的なデータも無視できない.他の専門領域の結果に対応した,病理の立場からの追求が必要であろう.
生体側の問題としては,癌を生じ易くするような肺内の変化についての知識も漠然としたものである.人の気道上皮に前癌状態とよべるような変化を早期発見の目的で認め得る機会は,子宮などとは異なつて稀である.まして,胃のポリープの一型や,輪状肝硬変のような強い意味での前癌状態として明確にされた変化が現実にはない.もつとゆるやかな意味で,古典的ではあるが瘢痕のあるものの辺縁からの発癌があると推定されている.瘢痕の部分での発癌物質の畜積や,循環障害,低酸素状態などが関連するものとされている.しかし,このいわゆる瘢痕癌についての実証は未だ乏しく,私どもも目下追求中である.一種の前癌状態を明らかにするこは,肺癌の予防の上からも重要なことと思われる.
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