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手術に伴う止血機構の変化
外科手術に際し,毛細血管からの出血はいちいち結紮しなくても自然に止つてしまう.これは毛細血管,血小板,血液凝固の3者の機能の協同作用の結果,強固なフィブリン栓子が血管の損傷部位を完全に閉ざしてしまうからである.そして生体内で血液凝固反応が起こる結果,血小板,プロトロンビン,フィブリノゲンなどいくつかの凝固因子が消費せられ,血液中より減少する.虫垂切除程度の比較的軽い手術ではこれらの凝固因子の減少もさほど著明ではないが,乳房切断術や胃切除術程度の手術になると,減少の程度はかなり著しい.但し多くの場合減少は正常範囲内にとどまるが,術中出血量が多くて大量の輸液や保存血輸血を行なつた場合には,希釈の影響が加わるため正常以下の値を示すこともある.またこのような生体内血液凝固という現象に拮抗して,多くの場合線維素溶解(線溶)現象が起こり,血栓の発生を防止するが,通常その程度は止血機構を妨げるほど強いものではない.
このような変化に引き続き,生体恒常性維持機橘の一環として,消費された血液凝固因子のすみやかな産生が起こる.血小板やフィブリノゲンなどは術後24時間にしてすでに術前値に復し,以後はかえつて術前値を凌駕するにいたる.そのピークは各因子により若下異なるが(おおよそ5〜10日目),凝固因子の増加は術後1〜3週目まで持続し,とくに血小板は数の増加のみならず個々の血小板の機能の増強がこれに伴う.また抗線溶活性の増強やアンチトロンビンIIIの減少などもこれと前後して起こつてくる.すなわち,止血機構は手術後の一時期に血液凝周性亢進hypercoagulabilityを示し,血栓を誘発し易い状態にあるということができ,事実術後血栓症(左腸骨大腿静脈に好発する)のほとんどはこの時期に発生している.
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