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はじめに
急性化膿性胆管炎は程度の差はあつても通常閉塞性黄疸を発現するが,黄疸そのものは本症における治療方針や予後を左右する程の意義はない.したがつて,本稿では急性化膿性胆管炎の治療ということで述べてみたい.
胆道閉塞の程度,その持続期間,胆道内の細菌の多寡やその毒性の強弱,さらには患者の年齢や抵抗性の大小などの諸因子によつて,胆管炎の臨床像は極めて多彩なものとなつてくる.胆道の不完全閉塞による胆管炎や再発性胆管炎などは,一般に保存的治療に反応するが,胆道が完全に閉塞され,膿胆汁が充満して急性化膿性胆管炎の状態を呈するようになれば,全ての保存的治療は無効となり,手術が絶対に必要となつてくる.1959年Reynolds & Dargan1)は化膿性胆管炎のなかでも,とくに電撃的な経過を辿り,早期に胆道の減圧を行なわないかぎり致命的となる病型を急性閉塞性胆管炎(acute obstructive cholangitis)と名付け,その臨床的概念を明らかにした.本症はいわば胆管炎の最終段階を示す病態と考えてよい.Reyno-ldsらは従来から急性化膿性胆管炎の症状とされている所謂Charcotの三徴(右上腹部痛,閉塞性黄疸,悪寒発熱)に加え,精神障害(不安,興奮,錯乱,指南力低下,嗜眠など)とショック症状を呈するのが本症の特徴で,急性化膿性胆管炎は勿論のこと,再発性胆管炎の経過中や,時には最初からこのような病態で発症することがあると述べている.さらにReynoldsらは,本症の原因は胆道の完全閉塞と膿性胆汁の充満による胆道内圧の上昇であり,抗生剤その他の保存的治療は全く無効で,早期の外科的処置が唯一の有効な治療法であり,たとえ極めて重篤な状態でも,緊急の外科的胆道減圧により劇的な改善のえられる症例のあることを指摘している.その後,本症は急性閉塞性化膿性胆管炎acute obstructive suppurativecholangitisという名称で報告されていることが多い.本症の発生頻度は比較的稀なもので,欧米では100余例の報告がみられているが,本邦では大浜2),菅原3),大内4)らの報告を合せても未だ20例に満たない.本症は急激に悪化し,早期の胆道減圧以外救いようのない極めて重篤な疾患である点から,胆道疾患の臨床にあつては常に本症を念頭においておかなければならない.しかしながら,本邦においては報告されていない症例も多いのではなかろうかとわれわれは推定している.教室では過去5年間に本症の4例を経験しているので,その概略を述べ,併せて治療についても言及したい.
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