特集 手こずつた症例―私の経験した診断治療上の困難症(Ⅱ)
心疾患の麻酔
岡村 宏
1
,
新津 勝宏
2
1岩手医科大学(麻酔科)
2岩手医科大学(外科)
pp.719-729
発行日 1962年8月20日
Published Date 1962/8/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407202939
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当教室独自の低体温ならびに超低体温法の研究はすでに実験的基礎的研究の域を脱し,広く一般臨床に適用し得る段階に至つた1)-15).このことは種々の重症疾患治療に新生面を拓くこととなろう.特に心疾患患者に大きな福音を与え,また同時に心臓外科発展にも寄与するところ大なるものがあると信ずる.現在一般には開心術は人工心肺法に依らねば危険と考えられ,従つて手術可能の場所は自ら限定されてくる.すなわち大量の血液が確保出来,高価な人工心肺を設備し得,しかも多人数の医者のいる大都市の大病院でしか治療出来ぬこととなり,一人の患者治療に伴う家族の犠牲,さらにはその経済的負担は並大抵でない.結果として診断治療の時期は遅延し,ますます重症度を加え,治療的にも困難を増し期間も長びく,一方では生涯医学の恩恵に浴し得ぬ心臓患者も出来る訳である.この点手軽にしかも安全に何処でも実施可能な超低体温法の意義は大きいと確信している.われわれはすでに123例の各種心疾患の手術を本法で行ったが,中85例は25℃以下最低16℃と云う超低体温で6分30秒から55分に及ぶ長時間の血流遮断下に開心根治手術が遂行され,その成績は誠に誇り得るもので,すでに日本1)-15)のみならず諸外国にも度々発表16)-20)し注目21)-23)されているところである.著者等は現在本法のみで2時間の血流遮断下の開心術が可能との線を出し得ている.
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