外科と生理
その16
須田 勇
1
1慶應大學生理學教室
pp.104-106
発行日 1953年2月20日
Published Date 1953/2/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407201201
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4.呼吸の変調
呼吸運動の特徴は呼息と吸息が一定の深さと頻度で交代性に起る点にある.この機序は延髄呼吸中枢よりの神経衝撃が吸息筋に達し胸腔が拡大することにより肺が被動的に拡大し,肺の拡大により迷走神経求心端が機械的な刺戟を受け持続的な求心衝撃を延髄に返送することによつて,現に放出されている神経衝撃が遮断されて呼息に移行するものと考えることも出来る.即ち呼吸運動の規則性はこのような中枢と末梢との間に活動の環が成立していることに由来する.このような環は中枢神経,細胞間に成立するとの考えもあることを前に述べた.何れにしても環の形成は生物に於ける調節の基本構造である.
環の中の中枢要素の興奮性は細胞環境の変化とそこに到達する神経衝撃の総量によつて規定される.呼吸中枢の場合は細胞環境としては酸素,炭酸ガス及びpHが問題となる.神経衝撃の流入径路としては大きく分けて次の3である.1)前脳性要因—各種の知覚及び自律系より大脳皮質,皮質下諸核で積分されて脳幹呼吸中枢に達するもので,人間の場合には感情変化に由来する視床性のものも含まれてくる.2)小脳性要因—皮膚,関節,筋等の運動及び姿勢反射に関胼した求心衝撃が小脳で積分されて流入する径路である.3)脳幹性要因—大動脈,頸動脈洞及び腺,其他肺,筋等に存在する機械的(圧,伸展),化学的(血液の酸素,炭酸ガス)変動に反應する求心系に由るもの.
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