特集 上腹部外科臨床の進歩
胃十二指腸潰瘍の外科的治療に関する理論
大井 実
1
1慈惠醫大
pp.527-538
発行日 1952年11月10日
Published Date 1952/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407201118
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潰瘍外科発展の歴史を顧るとき胃切除術にはじめて成功したBillroth(1881),潰瘍に対する胃切除術にはじめて成功したRydigier(1882)の功績はともかくとして,広範囲の胃切除術をもつて選択手術とするとの1918年10)にはじまるFinstererの提唱こそは沒すべからざる大きな功績といわねばならない.その後,多数学者の研究によつて潰瘍学そのものは著しい発展をとげてきたが,治癒面では單なるFinstererの踏襲に止まり,この提唱を否定して歴史の方向を変えるほどの事実も現われなかつたし,また大きな改変すらも加えられなかつた.もしFinsterer以後において潰瘍外科発展史上,見逃がすべからざる劃期的な業績があつたとすれば,それは,自分でいうのもおかしいが,著者の教室における壁細胞に関する研究業績29)30)であろう.
Finstererの広範囲胃切除術は教室の研究によりはじめて理論的根拠をうることができた.Finstererの広範囲胃切除方針は術後減酸をねらつたものではあるが,その方針を漫然と踏襲していたのでは,切除範囲の算術級数的拡大につれて,治癒効果がなにゆえに幾何級数的に向上するのかの理由,またある一定範囲を超えるとそれ以上に切除範囲を拡大しても,たとい算術級数的にもせよ,治癒効果がそれにつれて向上してこないという矛盾を説明することはできなかつた.
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