外科と生化学
その3
吉川 春壽
1
Haruhisa YOSHIKAWA
1
1東京大學生化學教室
1Tokyo. Univ.
pp.188
発行日 1951年4月20日
Published Date 1951/4/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407200803
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最近日本にも放射能をもつた同位元素が輪入されるようになつて,これを使う研究があちこちではじめられている.同位元素がどのように医学に應用されるかということはもはや多くの人は知つていることであろうが,こゝに念のため説明をしておころ.外科と生化学という表題とは少しそぐわないかも知れないが,外科領域での同位元素の應用例を一つ二つ記しておく.
同位元素というのは元素の種類,たとえば水素,燐,沃度というものには変りはないが,原子の目方すなわち原子量がちがうものをいうので,天然の水素は原子量約1の普通の水素と,ごく微量の原子量約2の水素という2つの同位元素の混合物である.燐は天然のものは原子量31のものしかないが,人工的に原子量32の同位元素をつくり得るのであつて,このものはラヂウムやメゾトリウムのように放射能をもち,β線を出しながら他の元素へと轉換してゆく.この放射性燐は化学的には普通の燐と全く同じ性質をもつているから,放射性の燐がわれわれの体の中に入れば,普通の燐と全く同樣の行動をとり,骨の成分にもなるし,脳神経のリポイドにもなるし,尿中にも排泄される.しかも,これは放射能をもつているのであるから,放射能独立測定装置でそれがどこにどの位存在するかということを正しく知ることができる.つまり,体の中に入つた燐を放射能という目印をたよりにどこまでも追つてゆくことができる.
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