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緒言 バネ股と稱せられるものは,文獻上その報告が餘り多くはないのであるが,實際上には割合にある疾患ではあるまいかと思われる。唯疼痛その他機能障碍が極めて輕度の治療を受けない事と,整形外科的に餘り興味を引かない爲に報告が少いと考えるべきであろう。さて從來のバネ股の報告を綜合すると,概ね二型に分ける事が出來る。即ち(1)關節外型,(2)關節型に大別せられる。此中バネ股と稱せられるものの大部分は,關節外型(1)に屬するものであつて,而もその中の大部分は大轉子の上を索状組織が突然彈力的に後方から前方に滑動すると,同時に,多少の雜音を發してバネ現象を呈するものである。此雜音が時には相當大きく,數間隔つた所からでも聽取し得る事さえある。Zur Verth等によれば,此索状組織はとりもなおさず腸脛靱帶の一部で,これが大轉子上を滑動するのであつて,股部の筋肉を緊張せしめ,或は弛緩せしめる事によつて,自由に此現象を起させ得る人があり,先天的に或は後天的に練習よつてなされると云う。斯かるバネ股は疾患と云うよりも寧ろ技工であつて何等の障碍もないのであるが,之とは別に大轉子附近に何等かの病的變化があつて起るバネ股は,患者の意志とは無關係にバネ現象が起り,且つ屡々障碍を伴う。此種のものは多くは外傷によつて惹起せられる。即ち長途歩行,疾走の反應,局部挫傷等が原因となると考えられている。斯るものに關しPupovaeは大轉位上に増大した粘膜嚢を認めたと報告し,Bayerv.Brun及びHohman等は粘液嚢ではなく多量の粗鬆結締織を見たと述べている。次にPfeifferが報告したTuber-Schnappenと稱するものがあるが,股關節を屈曲する際緊張した大臀筋下縁から坐骨結節が下方にバネ的に滑動するものであると説明している。即ち關節外型中の一種である。從て關節外型に屬するものは大轉子に關係あるものと坐骨に關係あるものとの二疾患が擧げられる。關節型(2)に屬するものではBraun・Langeによれば髀臼後縁に骨折があつて實際に骨頭が脱臼を起すのであるという。從つて此型は意志とは無關係に起り,且つ疼痛が強い。以上のバネ股は(a)股關節,(b)大轉子部,(c)坐骨結節に關係したものであるが,此他の部分に關係して發現するバネ股に關しては淺學の吾々は今日迄其報告を見ない。然るに吾々が最近經驗した症例は床上に於ても,將又手術所見(1例)に於ても,此等の何れとも等の本態を全く異にしており,而も明かにバネ股と稱すべきものであつて極めて興味あるものと認められるので敢えて玄玄に報告する。
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