特集 術前画像診断のポイントと術中解剖認識
Ⅴ.ヘルニア
鼠径・大腿ヘルニア
三ツ井 崇司
1
,
瀬戸 泰之
2
Takashi MITSUI
1
1河北総合病院消化器・一般外科
2東京大学医学部附属病院胃食道外科
pp.253-257
発行日 2013年10月22日
Published Date 2013/10/22
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407104816
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はじめに
日本には温泉や銭湯などの大衆浴場があり,他人の鼠径部を見る機会が比較的多かったため,鼠径ヘルニアは“脱腸”と称され広く認知されていた.そのためか放置されがちでもあり,鼠径ヘルニアの正確な有病率,発生率はわかっていない.人生の間に鼠径ヘルニアを発症する確率は男性で27%,女性においては3%程度との報告があり1),一般的な疾患であることは間違いない.しかし,鼠径ヘルニアにおける画像診断の必要性や検査の適応を検討している文献は多くない.
ヨーロッパヘルニア学会のガイドライン2)によると,明らかな鼠径ヘルニアであれば診断のための画像検査はほぼ必要ないと述べられている.画像がなくとも診断自体は感度74.5~92%,特異度93%で可能である3).実際に,臨床の現場で鼠径ヘルニアに対し画像検査を追加する必要性を感じる頻度は少ない.多くの鼠径ヘルニアは,立位・腹圧加での膨隆の確認や仰臥位での膨隆の消失,用手還納手技での抵抗感などの触診,還納後の自覚症状の消失・軽減など,外来での理学的所見によって確定診断できることが多い.
しかし,患者数の多い一般的な疾患であり,客観的画像所見を常に必要とするわけではないがゆえに,鑑別すべき疾患を見逃す可能性が高いともいえる.鼠径部のヘルニアの画像診断を論ずるにおいて第一に重要なことは,どのようなときに理学的所見のみの診断を疑い画像検査を追加するのかにある.常に鑑別疾患を念頭に置き,どのような患者群に検査が有用であるかを認識し,画像診断の目的を事前に明確にしながら検査をオーダーすることが重要である.
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