臨床外科交見室
脊髄硬膜外血腫を考える
出口 浩之
1
Hiroyuki DEGUCHI
1
1ときわ病院外科
pp.1692-1693
発行日 2010年12月20日
Published Date 2010/12/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407103357
- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
近年,硬膜外麻酔は多くのメリットが報告され,開腹術はもとより無痛分娩への応用など,その使用頻度と適応は増加している.また,術後疼痛管理のために2~3日間,局所麻酔剤の持続注入に使用される事例も多い.外科医ならばアッペやヘルニア,ヘモなど腰椎麻酔を施行する機会も多い.一方,近年は術前から抗凝固療法を受けている患者が増加しており,また術後の血栓予防療法が普及している.これらは脊髄硬膜外血腫の頻度を増加させる可能性を含んでいると思われる.脊髄硬膜外血腫は近年の上記の治療法の普及とともにあらためて注意すべき問題であると思われるので,本稿では私見を述べてみたい.
脊髄硬膜外血腫の発生頻度は,85万例を検討したTryba1)や130万例を検討したWulf2)の報告がその後の多くの研究論文に引用されているが,彼らによれば硬膜外血腫は15~19万例に1例の頻度で発症すると結論されている.この数字は個人はもちろん単一医療機関においてさえもおよそ経験し得ないような数であるがゆえに,まさか無関心を装っているのではないであろうが,自身の過去・現在の同僚医師をみても十分に認識されているとは言いがたく,憂慮している.しかし,西邑ら3)は,硬膜外麻酔の9,232例中10例,脊椎麻酔8,501例中3例に発症したと集計・報告しており,少なくとも脊椎麻酔においては生涯,外科臨床医を続ければ手が届きそうな症例数と経験しそうな頻度である.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.