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はじめに―痔核手術法の変遷
痔核は,直腸から肛門にかけて存在する静脈叢を含む粘膜下の結合織(クッション)の固定が障害されて下垂することによって生じるとの説が近年広く認知されている.痔核には歯状線を境に口側の内痔核と肛側の外痔核に分けられるが1),手術適応となる痔核は,(1)排便ごとに脱出し,本人が手術を希望する場合,(2)排便以外にも歩行時や立位で容易に脱出する場合,(3)痔核からの出血によって貧血をきたす場合としている.実際には内痔核,脱肛が頻度では最も多い.
根治手術は内・外痔核を問わず,流入する支配動脈の血流を遮断し,加えて痔核を切除してしまうことにある.この理念に基づいて行われる結紮切除法は昭和40年代から広く行われてきた.筆者らは当初,隅越2)の方法に従い,文字通り3本の支配動脈を3-0吸収糸で2重結紮し,その末梢の内外痔核を切除したまま開放創としていた.その後,創傷治癒時間を早める目的で,歯状線までは3-0吸収糸で連続縫合する半閉鎖式を好んで行ってきた.痔核の切除に際し,昭和の頃は電気メスで行っていたものを,熱損傷を小さくし術後の疼痛が緩和されることを期待して近年はハーモニック・スカルペル(超音波切開凝固装置)を用いて行っていたが,術後の疼痛軽減効果は今ひとつであった.
イタリアのLongo3)によって考案されたprocedure for prolapse and hemorrhoid(PPH)手術はこれまでの考え方とまったく異なり,痔核そのものを切除するのではなく,その口側の粘膜・粘膜下層を輪状に切除し,同時に吻合することによって痔静脈叢への血流を遮断し,さらに痔組織を挙上して側壁に固定することで痔核の消退と脱肛の消失を期待するものである4).この際,管状に切除された組織には粘膜および粘膜下層のほかに若干の筋層が含まれるのが普通である.
手術操作の環状切除・吻合が歯状線の口側で行われることから,理論上は術後疼痛がないわけであるが,実際は肛門縁での手術操作に伴う疼痛,環状に切除・吻合することによる牽引に伴う肛門の奥の違和感,疼痛などの訴えが生じる.これら諸症状は通常術当日から翌日の術後早期の期間だけであることから,全周性の脱肛を主訴とする内痔核には現在,最も優れた手術方法と考えている.しかし,片側性の脱肛や外痔核が主体のものには効果は薄く,このような痔に対しては結紮切除術を勧めるか,PPHを行ってみて効果が不十分ならば後日あらためて結紮切除術を追加する旨をよく説明したうえでPPHを施行している.
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