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今回は鼠径ヘルニアの外科治療の特集であるが,最近,投稿論文が増加してきている感がある.その背景には色々な領域での専門医資格などの問題もあるのであろうが,外科医が論文を書くということは大変よいことである.症例報告にしろ,研究論文にしろ,著者の外科医自身にとって自分自身の成長を促進するためのきわめて重要な,必須の行為といってよいであろう.経験した症例の1つ1つについてしっかり文献をあたり,その症例の問題点,意義を明らかにしていかないと決してよい症例報告にはならない.臨床研究ならば,日頃1例1例の外科手術およびその術前・術後管理に追われているだけでは,それらの症例群を俯瞰してみるという客観的な視点は生まれてこない.論文を書く際には日頃経験した多くの症例群をある目的を持った視点から解析していくことが多いのであるから,その時点での考え方が妥当であったか否か,自己検証することになるわけである.これは外科医にとって最も大切な行為であり,自身の臨床判断や臨床成績が国際的,あるいは一般的なレベルからみて妥当なものか,新たな発信となり得るものか,はたまた自己反省を要するものか,といった点が明らかにされてくるであろう.このような検証をしたうえで初めて解析結果の意義が評価出来る.そうした意義のある成果のみが臨床論文として発信されるべきであるから,日頃常にこのような姿勢を持って臨床を行っていくことの重要性がよく理解できるであろう.
「論文を書くことの重要性」をしばしば若い人に話すのは,数多くの論文実績を持つという目的のために論文を書くのではなく,論文を書くための過程における自身の臨床経験の自己検証を常に怠らずにしていくことが,臨床医の姿勢としていかに重要かを指摘したいからである.そのことを多くの医師が理解していれば,自分自身を臨床医として成長させるため学会発表・論文発表,さらには各々の施設におけるカンファレンスでの発表といったものの意義が明確にみえてくるであろうし,それらがより活発で愉しいものになってくるであろう.
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