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1 はじめに
医学生や研修医の教育においては,彼らを正しく評価することが不可欠です.これまで日本では,医学生の評価は,BSL(bedside learning)における態度評価を付加することもありますが,筆記試験を中心にして行われてきました.研修医の評価では,各ローテーションにおける研修上でのperformance(患者さんの診療や術前・術後の管理,手術中の判断力や手術遂行能力,カンファレンスでの発言態度など)の評価が主になされています.
一方,米国では,医学生の評価には,筆記試験も行いますが,clerkship(臨床実習)でのperformanceや態度,problem-based learningでのディスカッションの内容などが評価の対象として重視されています.また,problem-based形式による口述試験を行う場合もあります.研修医の評価においては,日常の研修におけるperformanceが最も重視されていますが,全米の研修医を対象とした筆記試験が毎年1回必ずあり,この結果も評価の対象となります.さらに,problem-based形式の口述試験を定期的に行います.これは特に上級の研修医(外科研修5年のうちの3年・4年・5年目の研修医)が対象です.米国では外科専門認定医になるためには,筆記試験に加えて口述試験にパスしなければなりませんが,この口述試験がproblem-based形式なのです.したがって,この専門医口述試験の準備という意味も兼ねて,“mock oral examination”と呼ばれる口述での試験・評価を行うわけです.
Problem-based形式の口述試験は,筆記試験と比較して,医学知識だけでなく,その知識の臨床への活用能力や臨床上の判断力を評価する上で特に有用です.より臨床に即した評価法として,この口述試験では,患者さんの病態や問題点の変化などに対応する能力や,自らの判断の背景となるエビデンスの評価,コミュニケーションの能力をみる上でも役立ちます.Problem-based形式の口述試験による評価は,現時点での医学生や研修医の知識や能力を評価することが目的ですが,そのほかにもこれを活用することができます.すなわち,口述試験での評価後に,彼らにその結果をフィードバックすることにより,それぞれの優れた点や弱点を指摘して今後の学習を助長したり,弱点に対するさらなる指導を行うことが可能です.また,このような口述試験を定期的に行うことによって,医学生や研修医の能力がときとともに改善しているか否かをみることもできます.
そこで今回は,mock oral examinationでよく取り上げられる症例のシナリオを用いて,problem-based形式の口述試験を紹介します.このような口述試験を行う際の注意点,ポイントは下記のとおりです.
(1)口述試験に出題するproblem-basedな症例のシナリオをつくるにあたっては,まず質問に対する評価ポイント(evaluation point)を決める.このevaluation pointは,problem-based conferenceでのteaching pointに相当するものである.評価を受ける学生や研修医が,このevaluation pointに対してどのような応答をするかが評価の決め手となる.
(2)Evaluation pointは,問題解決の上で必要な知識や,臨床状況に対応した判断力,その背景となるエビデンスなどであるが,重要な点は,それぞれの臨床状況における問題点に対して決断した判断や処置が,果たして正しいかどうかという点である.
(3)Problem-based conferenceでのディスカッションと異なり,評価を行う指導医は,評価を受ける者(医学生や研修医)の答えが正しいか間違っているかなどの意見やコメントは,試験中には述べないようにする.すなわち,口述試験の最中には,評価を受ける者に対して,その回答に対するフィードバックは行わない.
(4)口述試験での症例のシナリオは,主訴からはじまり,病歴,理学所見,検査,そして処置あるいは治療法と進行してよいわけであるが,evaluation point以外の事項はすばやく進行させる.例えば,評価を受ける者は逆に質問を返してもよいのではあるが,これがevaluation pointとかけ離れている場合には,迅速に応答を切り上げ,evaluation pointに関しての質問に集中するようにする.
(5)1つの症例に対しての最終的な評価は,数々あったevaluation pointに対して,医学生や研修医がどの程度正しく答えたかの総合的な評価によって行う.1つの症例に対して評価を5段階程度に分け,総合的に点数をつけるのもよいであろう.また1回の口述試験で2~4例を呈示し,個々の症例というより全体での総合的な評価をつけることもできる.評価の内容としては,知識,判断力,問題解決能力,緊急例に対する対応能力,コミュニケーション能力や,場合によっては医師としての責任感・信頼度や倫理観などを個別に評価することが可能である.
今回と次回にわたって,医学生を対象としたproblem-based形式の口述試験の症例1題,同じく研修医を対象とした症例1題の計2例を呈示し,口述試験の質疑応答終了後に,evaluation pointとなった項目の説明を加え,回答に対する評価をまとめてみます.
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