Japanese
English
特集 海馬の神経病理学
1.海馬の構造と線維連絡
Structure and Neuronal Colmections of the Hippocampus
石塚 典生
1
Norio Ishizuka
1
1(財)東京都神経科学総合研究所神経細胞生物学研究部門
1Department of Cell Biology, Tokyo Metropolitan Institute for Neuroscience
キーワード:
hippocampal formation
,
entorhinal cortex
,
presubiculum
,
Papez circuit
,
subiculum
,
memory
Keyword:
hippocampal formation
,
entorhinal cortex
,
presubiculum
,
Papez circuit
,
subiculum
,
memory
pp.881-892
発行日 1998年10月1日
Published Date 1998/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406901342
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はじめに
海馬体を含む側頭葉内側部が記憶や情動に関わることが実験的に示唆されたのは,19世紀末のBrownとSchäfer14)が始めであろう。彼らは視覚野の局在を探るためにサル大脳皮質の破壊実験を行い,両側側頭葉を大きく除去した一例で記憶障害,視覚認知障害とともに,恐怖感喪失,意欲減退などの情動変化を観察した。その症状は後に,KlüverとBucyにより詳しく記述された55)。その後1950年代に,ScovillとMil-ner66)がてんかん治療のために両側側頭葉内側部除去術を行った患者の多くに強度の順行性健忘が見られたことによって,海馬体とその周辺構造は特に記憶の形成(記銘)に強く関わることが注目された。最近,患者の一人であるH.M.の切除部位のMRI画像が報告された23)。また,記憶障害をきたすアルツハイマー病では,嗅内野,海馬台,CA1に顕著な障害が認められ11,93,94),さらに,脳虚血後に起こったCA 1の障害だけでも記憶形成障害の起こることが報告された105)。他方,間脳性病変や乳頭体萎縮を起こすコルサコフ症候群では,記銘障害とともに,記憶の読み出し(想起)障害や作話症状,いろいろな程度の逆行性健忘が見られる。これらから,海馬台-脳弓-乳頭体-視床前核-帯状回後部皮質と連続するいわゆるPapez回路64)は,広い意味で記憶の貯蔵と想起に関わる役割を果たしていることが指摘されている76)。
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