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1.はじめに
海馬(hippocampus)は大脳皮質に属し,海馬台,アンモン角,歯状回の領域が識別される。各領域はさらに,細胞構築と髄鞘構築による内部構造をもとに亜区分されている27,64,87)(図1)。また皮質分類上,単純な構造を示すという不等皮質(Allocortex)27,106),あるいはまた嗅覚に関与し系統発生的に古いと言われる皮質(Pleocor-tex,, Archicortex)9)に属すとされ,大脳皮質の中でも原始的な部分と見なされてきた。しかし個体発生を見ると歯状回顆粒細胞は85%が生後に発生し,ラットでは生後450日(P450)においてもなお細胞の発生を継続している21)。従って,小脳顆粒細胞と並び最も発生の遅い部位85),即ち最も新しく完成される構造物であると言えよう。また機能的には記憶形成に関与する高次機能を営む部位として近年注目される91)。一方,系統発生的には哺乳類進化の階梯を上昇するとともに発達している事94)が指摘されるなど,海馬皮質に対する新たな視点が提示されてきている。
海馬を構成する細胞群は,比較解剖学的には終脳半球外套内側壁に位置する細胞群に相当し,有顎脊椎動物を通じて相同構造物が見られるという60)。本来終脳背内側面に位置するこの細胞塊は,高等哺乳類では大脳皮質の発達とそれに伴う脳梁の増大により脈絡叢と共に後方へ伸展・変位し,前方には中隔・対角体へ続く紐状海馬(tenia tectaまたはtenia hippocampi),脳梁上面には脳梁灰白層(indusium griseum)と内・外側縦条(Striaelongitudinalis medialis et lateralis)を残し,海馬の本体は脳梁後部から側頭葉内側面に連続することとなる2,29)(図2)。これら三部分は交連前海馬(precommis-sural hippocampus),交連上海馬(supracommissuralhippocampus),交連後海馬(postcommissural hipPocam-pus)とも呼ばれる。哺乳類では海馬皮質の肥大に伴って皮質に巻き込み(inrolling)が生じ,回脳・滑脳を問わず海馬溝を形成する。海馬皮質の構造的特徴は,脳弓の走行が示すように側脳室に沿った三次元的な展開と,横断面にみられるS字状の皮質の巻き込みにあり,この結果海馬内部では各領域の細胞群相互に位置関係のずれが生じ1),一般皮質とは異なる特異な層構造を呈すると解される。
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