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特集 細胞保護治療の将来
神経栄養因子—神経細胞死とその保護
Neurotrophic Factors:Neuronal Death and Its Protection
久野 宗
1
Motoy Kuno
1
1京都大学,岡崎生理学研究所
1Kyoto University and Okazaki National Institute for Physiological Sciences
キーワード:
neurotrophic factors
,
neurodegenerative disease
,
neuronal death
Keyword:
neurotrophic factors
,
neurodegenerative disease
,
neuronal death
pp.1087-1098
発行日 1996年12月1日
Published Date 1996/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406901035
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I.神経栄養因子の定義と問題提起
1824年,Magendie1)は兎の三叉神経を切断すると数日後にその支配組織に種々の損傷変化が生じることから,神経は標的組織に対し一種の栄養効果を持つと仮定した。このように神経栄養因子という概念は最初,神経から標的組織への効果として導入され,この順向性栄養因子の研究は現在さらに進展している2)。しかし,神経細胞の生存が逆に支配組織に依存することが見い出され3),標的組織から由来する神経細胞の生存維持因子としてNGF(nerve growth factor)が最初に同定された4)。以来,神経細胞に対する効果が強調され,「神経栄養因子とはニューロンの生存,分化,機能を維持する内因性物質」と狭義に定義されている5〜7。
上記のように定義された神経栄養因子は神経変性疾患の病因と治療の2面に関して問題を提起する。第1は,神経栄養因子が神経細胞の生存維持に必須なら,その欠乏が変性疾患の原因となり得るかという疑問である。第2に,神経栄養因子が神経細胞の生存を促進するなら,これを変性疾患の治療として用いることは可能かという問題である。これらは臨床医学に関連した問題であるが,神経細胞死の機構の基礎研究との連携が要請される問題でもある。神経細胞死の誘発機構が明らかになれば,その保護手段の開発は容易になるはずである。
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