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はじめに
神経疾患にはアルツハイマー病,パーキンソン病などに代表されるニューロン死を主徴とする変性疾患をはじめ,神経機能の亢進や低下をきたす統合失調症やうつ病,神経伝達障害を起こす多発性硬化症や脊髄損傷など,幅広い病態が含まれる。社会の高齢化や不況ストレスが続く中,神経疾患は益々増加の傾向をたどっている。疾患の予防はもちろんのこと抜本的な治療法の確立が急務である。神経疾患の原因は様々であり,疾患固有の原因を解明した上で抜本的方策を立てるのが王道であろう。しかし,仮に原因がわかってもすぐには治療に結びつかないことも多い。神経栄養因子はニューロンが被る多くの傷害性要因に対してニューロンに抵抗性を賦与し,ニューロン保護作用を示すことが多くの事例で示されている。神経栄養因子の機能をうまく引き出すことによって原因究明とは別の視点からニューロン保護が実現できる可能性がある。神経栄養因子のうち最もよく研究されているのはニューロトロフィンファミリーである。哺乳動物では神経成長因子(NGF)をプロトタイプとして脳由来神経栄養因子(BDNF),ニューロトロフィン-3(NT-3),NT-4/5が知られている。またドパミンニューロンや運動ニューロンに強い作用を示すグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)を含めて,神経疾患への応用が期待されている。
「神経再生」は本来軸索の再生を指しており,損傷で失われた軸索が細胞体から発芽,伸展し,再び神経機能を回復することを意味していた。なぜならニューロンは分裂しない細胞であり,死滅すれば再生されることはないと考えられてきたからである。この概念は成熟脳における神経幹細胞の存在と,機能を持つニューロンへの分化が証明されることによって打ち破られ,ニューロンそのものも再生の対象と考えるようになった。神経幹細胞からニューロンへの分化に神経栄養因子が関与することはこれまでも示唆されてきたが,その機構はほとんど明らかにされていない。神経幹細胞を将来医学的に利用するためにはその解明は不可欠であり,神経幹細胞に及ぼすニューロトロフィンの作用の一端についても紹介する。
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