書評
—編集主幹 伊藤正男・楢林博太郎—神経科学レビュー(3)—ANNUAL REVIEW OF NEUROSCIENCE年刊誌
石井 毅
1
1東京都精神医学総合研究所
pp.1202-1203
発行日 1989年12月1日
Published Date 1989/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406206441
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この本は神経科学の広い分野をレビューしたもので,内容は多岐にわたっている。このような「レビュー」をレビューするのは容易ではない。というのは,それぞれの分野のレビューがそれぞれ独立したテーマであり,個々のテーマは興味深く読めるが,全体としでどうかと言われると評価のしようがない。また,その多くは私の専門外の領域で,レビューする資格がない。
以上のような読者の困惑を予想してか,このレビューはトピックスレビューとアニュアルレビューの二つの項目に分けられている。トピックスレビューは10項目より成っているが,この中で多少ともコメントできるのは立石教授による「Creutz-Feldt-Jakob病の病理と病因」だけである。特異な感染疾患であるこの病気について,立石教授の業績は世界に誇るに足るであろう。ことにマウス・ラット等の小動物への接種(transmission)に成功したことは,実験を容易とし,感染因子の分離固定等に道を開いた。この感染因子の特性はまことに奇妙で,生物学の常識で理解困難である。このタンパクの前駆体は正常細胞にも存在し,DNAも明らかになっているが,感染細胞のものは完全に消化されない形であるという。不完全消化の結果として,おそらくアミロイド沈着(クル斑)があると思われるが,それでもなお,正常にもあるタンパクが感染性をもつことが,私にはまだ理解できない。謎が解かれる日を待つほかはないだろう。
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