書評
—監修 勝木 保次(東京医科歯科大学名誉教授)・内薗 耕二(東京大学名誉教授) 総編集 星 猛(東京大学教授)・伊藤 正男(東京大学教授)—新生理科学大系 膜輸送の生理学/—編集 星 猛(東京大学教授) 香川 靖雄(自治医科大学教授)—第3巻 膜輸送の生理学
吉岡 亨
pp.1129
発行日 1987年12月1日
Published Date 1987/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406206020
- 有料閲覧
- 文献概要
今回新たに刊行された本書は,いわゆる膜科学の中心課題である膜輸送を取り扱ったもので,「新生理科学大系」の中では極めて特徴的な方針で編集されている。執筆者は生理・生化学者はもちろんのこと,薬学,工学者にまで及び,生体膜から人工膜まで,理論から市販品の構造にまでという風に幅の広いトピックスを紹介している。
そもそも生体膜は,基本的にはリン脂質とタンパク質を2大成分として構成されているために,脂溶性(有機溶媒に可溶)の物質以外は,貫通タンパク部以外の膜を透過し得ず,そのことが,細胞内部の世界の独立性を保証して来たのである。しかしながら,生きている細胞の示す各種の生理応答はもとより,細胞そのものの生命を維持するためにも,外界から,各種イオン,栄養,酸素ガスなどを選択的に取り込み,不要代謝産物を廃棄する機構を細胞が保持することが不可欠であることは論をまたない。しかしながらこれら細胞活動に関与する機能分子である,チャネル・ポンプ・キャリアなどのタンパク質は,本書が世に出る僅か数年前までは,その構造を含めた実体が不明のままであった。これらの機能分子については多くの項目に亘り,本書執筆当時の最新の知見が,くまなく網羅されており,読者は本書の内容を詳しく吟味することにより,いわゆる遺伝子工学と呼ばれている技術革新が,この分野に,いかに大きなインパクトを与えたかを理解することが出来よう。
Copyright © 1987, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.