書評
—杉下 守弘(東京都神経科学総合研究所)—右脳と左脳との対話
大橋 博司
1
1京都大学精神神経科
pp.786
発行日 1983年8月1日
Published Date 1983/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406205168
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専門領域の最近の成果を教養書ないし啓蒙書の形で一般読者に伝達することは,有意義ではあるが,またきわめて困難な作業であるにちがいない。ふつう第一線で活躍している専門家は,啓蒙書を書く暇がないか,またはそのような作業が苦手であり,余り上手でもない。一方,専門家ではないが,啓蒙的な仕事を「専門」とする学者やジャーナリストによる著作には秀れたものがないわけではないが,多くは基本的な資料の一誤解,歪曲とはいわないにせよ—単純化によって,あるいはいまだ仮設の段階にある理論をすでに証明ずみの事実であるかの如くに取扱うことによって,読者の側に多かれ少なかれ誤った知識を植込む危険もはらんでいることが少なくない。
神経心理学の領域では,とくにスペリーらによる分離脳の知見も一つのきっかけになって,いわゆる離断症候群や大脳半球ラテラリティーの問題が脚光を浴び,この方面の最近の研究の進展にはめざましいものがある。そのためか,右脳,左脳の心理機能の比較などを論じた啓蒙書が街の一般,書店の店頭に数多く見られるこの頃であるが,そのほとんどが研究の成果を正しく反映しているとは限らない。
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