連載 神経心理学史の里程標・12
神経心理学的基本概念とその起源(前篇)
浜中 淑彦
1
1京都大学精神神経科
pp.196-197
発行日 1983年2月1日
Published Date 1983/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406205078
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現代神経心理学を支える三大礎石ともいうべき基木的考想—大脳皮質における平面的局在論(Gall,Broca)とその一変種ともいうべき大脳半球優位論(Dax,Jackson),神経機能階層論(ジャクソニズム),連合主義(Wernicke)—が19世紀に成立した事情は,先稿までに素描した通りであるが,ここで今日なお,なしにはすますことの出来ぬいくつかの基本的概念ないし用語の起源に触れておこう。
失語"aphasie"なる用語が,Bro—caが最後まで固執した"aphémie"(1861-69)に代えるに,年長でもあり,又当時のパリ医学界でより大きな影響力をもつていたHôtel-Dieu病院内科学教授 A.Trousseau(1801-67)によつて提案(1864)され,これが一般化したものであることは広く知られている。その際Trouseauは,医学辞典の著者にしてHippocrates全集の編者でもあつた実証主義者E.Littré (1801-81)ら古典研究家の意見を参考にもしたが,実は雄弁をもつて鳴る彼がHô—tel-Dieuで行つた臨床講義(1861—68)の一端からもうかがい知ることが出来る通り,彼の失語症状の解釈(1864/65)はBrocaとはやや趣を異にしており,構音言語よりは語記憶の障害を重視し,知性の障害が若干加わつていることに注目していたのであつて,ここに既に今世紀前半の知性論対反知性論の対立の起源を見ることも困難ではない。
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