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神経疾患の分類については古今,東西を問わずいろいろな苦心が払われている。感染などのように外から病因が侵入したものであれば,その病原体によって分類するのが基本であるから,新種の病原体が発見されればそれに応じて分類はふえるとしても,分類にそれ程大きな苦労はない。しかし変性などの原因の明らかでない,しかも病態が和互に重なりあう,複雑な臨床経過を呈するものを,ある特色をとらえて臨床病理学的に分類することは必ずしも容易でない。
このような神経疾患の分類は,丁度,虹を色分類するのに似ていると,私は思つている。虹を我我は昔から,赤,橙,黄,緑,青,藍,菫,の七色に分けているが,色の変化は連続的であり,どこで区切るかによつて虹はこの七色でなくても分類可能である。我々は便宜的に我々のよく知つているこの七色で虹を代表しているに過ぎない。虹の色は光の波長で整然と標識することもできる。それに比べれば疾患分類は遥かに厄介である。臨床的にも,病理学的にも納得がゆき,万人が満足するような分類を作ることは至難である。ある一つの観点を中心にして分類が行なわれると,その結果当然のことながら,二つの疾患の間には両者の何れにも属せしめ難い,丁度緑とも青ともいいがたいものが現われる。こういう種類の分類というものはそういうものなのである。こういう中間型の出る分類を好まない人もあるが,分類というのは元来,物事全体を理解し,把握するための便利のために設けられたものであり,従つてその中の代表的ないくつかのサンプルを以つて分類の核とするものであれば,左右何れともいい難いものが出るのはむしろ当然である。つまり,自然に生ずる病気をいくつかの引き出しに区分けして収めるのが疾患分類であつて,人が作り出した電気器具や文房具を引き出しに分類するのとはもともと訳が違う。後者ではあらゆる種類は何れかの引き出しに収納できるが,前者では適当な引き出しのない場合がある。それをどこかの引き出しに押し込もうとすると無理が生ずる。分類する引き出しのないときは,そのまま引き出しの外に出しておくことが大切である。引き出しに入らないものが溜つて,その中から一つの引き出しに当てはまるものがまとまつたら新しい引き出しを設ければよい。すべての疾患を(ひいてはすべての症例を)無理やりにどこかの引き出しに入れようとすると,引き出しが元の位置に収まらなくなる。
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