連載 神経心理学史の里程標・3
Gallの脳器官学organologieとその形成
浜中 淑彦
1
1京都大学精神神経科
pp.517-519
発行日 1982年5月1日
Published Date 1982/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406204944
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19世紀前半の全ヨーロッパを論争の渦中へと捲き込んだGallの局在論的仮説とはいかなる内容のもので,いかにして形成されて行つたのであろうか。彼の学説は後にパリに移住して発表された主著「神経系一般,特に大脳の解剖学と生理学」4巻(1810/19:第1,2巻のみSpurz—heimと共著)に最終的にまとめられることになるが,その墓本的構想はWien時代に,出版物検閲係の宮廷秘書兼文筆家J.F.v.Retzer (1754—1824)宛の書簡の形式で,同郷の代表的啓蒙期叙事詩人C.M.Wieland(1733-1813)がWeimarから刊行していた文芸誌Der Nene TentscheMerkurに発表された「人間及動物脳器官序論」(1898)に明石崔に述べられている:1)人間と動物のさまざまの能力(Fähigheiten)と傾向性(Neigungen)は生来性(angeboren)である。2)これら能力と傾向性はその座,基盤を脳に有する。3)能力は傾向性と本質的に異なりこれに依存しないのみならず,さまざまの能力,さまざまの傾向性は相互に本質的に独立した異なるものであり,従つてそれぞれ脳の独立した異なる部分にその座を有する。4)異なる器官〔=能力,傾向性の座〕が異なる仕方で配列,発達するために脳の異なる形態が生じる。5)特定の器官の配列と発達によつて脳全体ならびに各部位(器官の領域)の特定の形態が生じる。6)頭蓋の発生から高齢に至るまで,頭蓋内面の形態は,脳の外的形態により規定されるから,頭蓋外面が内面と合致し,既知の相違以外の例外がみられない限り,ある種の能力と傾向性を推論することができる。
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