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I.はじめに
賦活(activation)とは,何らかの作用,機能がある因子の存在により促進されることである。その意味で脳代謝賦活剤とは様々な原因による脳代謝障害に対し,脳の機能を促進し,それが臨床的改善に役立つものを総称しているものと思われるが,脳代謝賦活剤に相当する言葉は欧米の文献には見当らず,その言葉の内容は必ずしも明確とはいえない。わが国で脳代謝賦活剤なる名称が用らいれるようになつた端緒は,相沢らが生体外から投与したATPの脳に対する薬理作用を検討し,ATPがinvitro, in vivoいずれにおいても脳組織の代謝改善に効果を有することを明らかにしたことにはじまる1,2)。その後脳代謝過程に関連する種々の酵素,補酵素,ビタミン,中間代謝物質などが実験的,臨床的に脳代謝異常を改善するとの報告がなされ,脳代謝賦活剤という概念で整理されて来た。この間従来のN2O法に加え,isotopeによる局所脳循環,電極による局所脳組織ガス分圧およびpHの連続測定法などにより,脳循環代謝障害の病態がかなり明確になり,脳血管拡張剤,脳浮腫治療剤など,その使用に合理性が与えられて来たが,いわゆる脳代謝賦活剤に関しては我が国における業績があるのみで諸外国の報告は少なく,日本においては既に20年前に検討されたATPの脳循環代謝に対する結果の報告が最近の国際学会で報告されたほどで,この分野における研究は今後に俟たねばならない面が多い。
一方脳血管障害時に,脳代謝を賦活させる考えとは逆に,脳への酸素ならびに基質の供給障害に対応して,脳代謝を抑制させるという考えが従来よりあり,低体温療法やchlorpromazine投与が知られているが,近年barbiturateが脳hypoxiaに対する脳保護作用があるとして注目されている。これら一見矛盾した二つの治療法は,作用機序の差異はあつても,終局的には脳代謝改善へと導くことであり,この点では等価であるといえる。
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