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特集 神経系先天代謝異常症の症候
遺伝性神経疾患における病像の変異
Varience of phenotypic expression in hereditary neurological disorders
有馬 正高
1
Masataka Arima
1
1国立武蔵療養所 神経センター疾病研究第二部
1Division of Child Neurology, National Center for Nervous, Mental and Muscular Disorders
pp.439-443
発行日 1979年5月1日
Published Date 1979/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406204406
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I.はじめに
先天代謝異常症の種類は多く,その症状も代謝異常の種類に応じて多様である。臨床医学においては特徴的な症状に対応して特有な基礎疾患が見出されるという経験から,症候の分析で疑診を置きそれにもとづいて検査をすすめて確定診断にいたるという方法が定着してきた。多くの神経疾患の診断もそのような方法が重要であり,そのために,局在徴候の正確な把握と臨床経過や発病年齢を考慮して組み合せを作り診断にいたるという訓練が行なわれてきた。
一方,先天代謝異常症における疾患単位の確立の過程をふり返ると,遺伝性がありかつ特徴的な病像や病理像を呈する状態に対して特定の病名がつけられた例が多い反面,近年は進歩した検査技術の応用によって特有な代謝異常が先に見出され症候分析はその後の症例の蓄積によつた例も数を増している。そこにおいては病像の特徴が必ずしも明確でなく非特異的と思われる症例も経験される。さらに,ある種の疾患においては,当初,臨床病理学的単位として把握されていたのに生化学的特徴が明らかにされ,診断の手段として広く用いられるにつれて臨床像の多様性がみいだされる例も増してきた。すなわち,臨床病理学的単位と生化学的特徴との対応が必ずしも一定でない事実に遭遇するようになつた。このなかには表現型としての発病年齢や主要症状の違いだけでなく,同じような酵素の欠損状態を示しながら重篤な症状を呈するものと全く無症状に過ぎるものとが見出されたという例も報告されている。このような病像の変異は感染症などにおいてはかなり一般的な現象として認められてきたのであるが先天代謝異常症の解析においても無視しえない事実と考えられる。
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