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概要
20世紀前半のドイツでBirnbaum Kは精神医学に構造分析(Strukturanalyse)を用いることを提案した1)。その鍵概念である,pathogenetischとpathoplastischというドイツ語の邦訳語が,それぞれ「病像成因的」と「病像形成的」である。Birnbaumは精神疾患の病像に関わるさまざまな要素のうち,病因に直接関わり,当該の疾患に特異的な性質を与えるものを「病像成因的」な要素と呼び,他方,病因への直接的な関与はないが病像の内容に個別の特徴を賦与する要素を「病像形成的」な要素と呼んだ。統合失調症において最近みられる,ツイッターなどのソーシャル・ネットワーキング・サービスによってプライバシーが流布されるという被害妄想,自我漏洩症状を例にとろう。これらにおける現代の情報文化の役割は,病像形成的とは言えるが,病像成因的とはおそらく言えないだろう。一方,文化精神医学の領域では,文化は,病像を修飾する病像形成的な要因に過ぎないのか,あるいは病像成因的にも働くのか,という議論もなされる。文化の役割については,文化結合症候群や,あるいは伝統社会が急速に西洋近代化した地域における自殺,物質依存などを考えると良いだろう。なお,Birnbaum自身の分析はやや古色蒼然としてみえるかもしれないが,「器質性痴呆精神病」を例にできるだけ当時の彼の表現に則してみてみよう。1)特異的な病像成因的決定因子には,身体外因性(外傷性,中毒性,感染性など)と身体性(動脈硬化性など)とがある。2)病像成因的な所与の臨床現象形には脳の破壊過程に基づく慢性進行性の精神的な解体と停止,具体的には錯乱,興奮,朦朧状態などがある。3)病像形成的な決定因子は主として「体質的」であり,概して統合失調症や心因性精神病など他の精神病に比べて病像形成の作用する余地は少ない。4)病像形成的な所与の臨床現象には,抑うつ性,心気性,パラノイア性,ヒステリー性などさまざまである。
Birnbaumの仕事がなされた20世紀前半のドイツの精神医学では,複雑な臨床経験から精神疾患をどのように分節するかの論争が続いており,Kraepelin Eが疾患単位を唱え,Hoche AEが症候群説によって批判したのはよく知られている。Birnbaumの方法は,Kraepelinの疾患単位説を前提としながら病像の構成を分析したのに対し,Birnbaumと論争のあったKretcmer Eによる多元分析は,いきなり各々の要素を列挙して疾患単位を離れている点が異なるとされる3)。
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