書評
—L.C. McHenry 著 豊倉 康夫 監訳 萬年 徹・井上 聖啓 訳—神経学の歴史—ヒポクラテスから近代まで
椿 忠雄
1
1新潟大学
pp.1188
発行日 1977年11月1日
Published Date 1977/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406204157
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現在は歴史によつて規定されている。如何に急速に躍進した学問や社会の領域でも,それぞれの歴史の過程の上に成り立つ。神経学において「然り」である。しかし,最近の発展があまりに速く広いため,これを専攻する学者が往々にして歴史をふりかえることを忘れる。悲しむべきことである。
この時において,Garrison-McHenryの神経学の歴史の翻訳が豊倉教授らにより完成されたことはきわめて重要な意義がある。訳書の書評は往々にして原書の書評にもなる訳であるが,豊倉教授らがまえがきにおいて,「私共の(翻訳の)作業が実際に始つたのが3年前である。(中略)この間,本書の優れた価値がいささかも減じようはずはなく,また本書に対する私どもの認識や情熱もますます大きくなる一方であつた。不思議なことだが,伝統的な神経学の歴史に関する単行書は,内外を通じて今までまつたくなかつたと申しても過言ではない」と述べていることは本書のそのままの位置づけである。本書の価値は言を俟たないが,外国語の書はとりつきにくいのが普通である。それはどの領域でも同じことではあるが,自分の研究領域ではとりつきにくくても読む。しかし,医学史の場合,医学史の専門家のみならず,医師全体が読者である。これらの人々が医学史原書をたやすく読むことは困難である。ここに訳書の価値がある。
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