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I.はじめに
第二次世界大戦中に毒ガスとして使用されたナイトロジェンマスタードは,制癌作用のあることがわかり,戦後悪性腫瘍の治療のために救世主として期待をもつて受けいれられた。確かに当時,全く治療の術すらなかつた白血病などに対して寛解がもたらされ,見るべき成果はあつたが,その効果も一時的であり決して満足できるものではなかつた。その後多くの抗腫瘍剤が開発され,脳腫瘍も含めて様々な悪性腫瘍に試用された。それらの薬剤により白血病における寛解率の向上はみたものの1960年代まではやはり治癒には程遠く,一方悪性脳腫瘍の化学治療の結果からは特に顕箸な効果が見られず,脳外科医の興味を徐々に減退させてしまつた感がある。
しかしながらここ10年の間に地道な研究と経験のつみ重ねの結果,抗腫瘍剤によつて明らかに治療効果の改善がもたらされた疾患が2つある,その1つはacute lymphoblastic leukemiaである。以前はこの疾患の平均寿命はわずかに4カ月であつたのが徐々に改善され,1975年の結果では,羅患小児の5年生存率が80%に達してきている1,2)。その上以前は50%の患者にみられた髄膜転移も,現在では予防的なmethotrexateの髄膜内投与により5%以下に激減している。もう1つはこれも悪性度の高い骨肉腫であるが,数年前までは手術による摘出後(主にamputationよるわけであるが)12カ月以内に80%の患者が肺転移を起し,死の転帰をとつたのに現在では手術直後よりのmethotrexateやadriamycineなどによる精力的な化学療法によりこの転移率は12カ月後に20%,30カ月で30%弱と飛躍的な改善をみた3).これらの疾患にかかつた患者達の長期生存も可能になつてきた。これらの事実は新たに,化学療法の効用という面でもう一度見直す機会を与えた。これらの進歩は新しい抗腫瘍剤の開発による所もあるが,むしろそれよりも腫瘍の生態の解明及び現存する薬剤の使い方の改革によるところが多い。
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