書評
—内薗 耕二・五十嵐 正雄 編—脳の活性物質
黒川 正則
1
1東京大学生化学
pp.693
発行日 1976年7月1日
Published Date 1976/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406203913
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シナプス学者として高名な内薗教授と視床下部ホルモン研究の第一人者として知られる五十嵐教授によつて編集されたことからうかがえるように,これまで個別に眺められていたふたつの領域を一巻に収めたという点にまず本書の特徴がある。神経伝達および神経内分泌相関という神経生物学における二大テーマがこの総合的な視点から捉えられるについては,それなりに学問的な成熟の背景はあるとしても,編集者の卓見と執筆者の綿密な共同作業がなければ,本書は成立しえなかつたに違いない。本書の第2の特徴は,脳の生理活性物質がそのごく基本的な機構においてとり扱われているに止まらず,さらに進んで臨床医学とのかかわりが深く考察されていることであり,このことは編集,執筆陣によつて代表されるわが国の学問的な厚みを示しているといつてよい。
本書の構成は11章(400頁)から成り,第1章は活性物質研究史の概説,第2章はアミンの代謝,薬理,中枢神経疾患とアミン,第3章は松果体の形態と機能,第4章は視床下部ホルモン,神経分泌,脳下垂体視床下部におけるステロイド受容体をめぐる諸問題,第5章はアセチルコリン,第6章はガンマ・アミノ酪酸,第7章はグルタミン酸,策8章は環状ヌクレオチド,第9章は記憶物質,第10章は活性物質と睡眠,第11章は化学伝達物質にあてられている。執筆40氏の専攻は形態学,生理学,生化学,薬理学,内分泌学,精神医学と多様であり,このことは問題の広がりをあらためて指摘すると同時に,本書の内容をいちじるしく充実したものにしているのである。
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