総説
わが国における先天代謝異常症の現況
有馬 正高
1
,
田中 晴美
1
1鳥取大学医学部脳幹性疾患研究施設脳神経小児科
pp.13-19
発行日 1975年1月1日
Published Date 1975/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406203641
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I.はじめに
脳障害の原因となる先天代謝異常症の種類は過去20年の間に著しく増し,現在においても新たな疾患が相ついで発見れさている。一方,診断面においても,従来は剖検や生検に頼らざるを得ないために見逃されていた症例が血液や尿の分析により生前に適確に診断されるようになり,症例数も種類も着実に増加しつつある。先天代謝異常症は遺伝的な疾患が大多数であり,国民のもつ遺伝子頻度が急速に変化することはない。しかし,発見される機会は時代とともに変るし,また,特に常染色体性劣性の疾患は一般集団における近親婚率の変化とともに患者の発生頻度そのものも変化するであろう。したがつて,折にふれて疾患の集計を行い年度別に比較することはその時代の医学的水準や遺伝的背景を推察する一つの目安にもなろうと考える。同様な問題は,治療法についてもいえることであり,その時点における最高の治療法は何かという経験の評価が必要であろう。現在,わが国においてこのような集計が行なわれている代謝異常症はほとんどなく,わずかに,フェニールケトン尿症のmass screeningが乳児の尿を用いて行政レベルで行なわれ,また,一部の地区では,濾紙血液を用いたGuthrieテストが実施されているに過ぎない。本稿においては,臨床的立場から今までにしられているいくつかの事項を選び,わが国における現状の一端をのべる。
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